好きを仕事に.com

「仕事」をテーマにインタビュー記事書いてます

「桃太郎」をおばあさん目線で書いてみた~愛する夫と、桃太郎と~

f:id:lifework4510:20180607074219j:plain

 

いつもと変わらない朝が始まった。だけど、今日は何かいいことがあるような気がした。

 

 

朝食を食べ終えてしばらくして、夫は山へ柴刈りに行き、私は川へ洗濯に行った。空は青く、川の水は澄んで、光を反射してキラキラ光っていた。

 

 

洗濯を終えてさて帰ろうかと思っていた頃、なんと大きな桃が流れてきた。

 

 

びっくりしたが、次第に笑えてきてしまった。なんなんだこれは。

 

 

きっと夫も笑ってくれるに違いない。夫がどんな反応をするのかが見たくて、桃を持って帰ることにした。

 

 

家に帰ってしばらくすると、夫が帰ってきた。そして案の定、桃を見つけて突っ込まれた。

 

 

―これ、何?

 

ー桃。

 

ーいや確かに桃だけど。どうしたの?

 

ー洗濯してたら流れてきたから、持って帰ってきた。

 

ーいやいや、普通持って帰ってこないだろ。

 

 

 

そんなやりとりをして2人で笑った。

 

 

そして桃を割ってみることにした。何か大事なものが入っているように思えて、そっと丁寧に扱った。

 

 

すると、中から元気な男の子が出てきた。

 

 

f:id:lifework4510:20180607074627j:plain

 

この村に人たちは優しかった。突然うちに子どもができたから不思議に思っただろう。でも私は、この子のために詳しいことは話せない、だけど我が子のように思っていると言って貫いた。それ以上、深く聞いてくる人はいなかった。そして困ったときには色々と助けてくれりもした。

 

 

桃太郎が少し大きくなった。果たして周りの子たちと仲良くやっていけるかものすごく不安だったが、すぐに仲良くなり、みんなと野山で遊ぶようになった。その姿を見てほっと胸をなでおろした。

 

 

もう少し大きくなると、心優しい、そして正義感の強い人になった。たまにその正義感からケンカして帰ってくることがあり、そのことについて私が何か言うとふてくされて「分かってるから」と言ってきたりした。そういうことがありながらも、夫の柴刈りに一緒について行ったり、私の川での洗濯を手伝ってくれたりと、たくましくも女子力の高い子に育っていった。

 

 

f:id:lifework4510:20180607074921j:plain

 

 

「鬼ヶ島に鬼退治に行ってくる」

 

 

いつかはそんなことを言い出すような気がしていたが、いざ言われると頭の中が真っ白になった。鬼が悪いことをするので人々が困っている。誰かが退治しに行かなければならない。そういうことが最近この村で話題になっていたが、そんな話に桃太郎が強い関心を持っていることは知っていた。

 

 

鬼退治・・・命を落とすかも知れないし、2度と桃太郎に会えなくなるかも知れない。私の本音としては、桃太郎のことを応援する気持ちよりも、行ってほしくないという気持ちの方が強かった。

 

 

桃太郎もそんな私の気持ちを察しているのだろう。でも、決意は揺るがないのだろうなということが目を見て分かった。

 

 

何と答えたらいいか分からずに、しばらくの間、沈黙となった。そうして、夫が話し出した。

 

 

「俺はな、この村で生まれてこの村で育ち、ずっとこの村と共に生きてきた。幸せに暮らしているし、後悔はない。だけど若い頃には、村の外に出てみたい、何かを成し遂げたいと思ったこともある。

 

今、お前が行きたいというのであれば、思いっきりやってこい。俺らのことは心配するな。この先もここで楽しく暮らしていくから」

 

 

桃太郎も様々な感情が入り混じっているのだろう。声を震わせてうなずいた。

 

 

f:id:lifework4510:20180607075528j:plain

 

 

桃太郎が出発する前日の夜、きびだんごを作っていると、涙が出てきた。

 

 

桃太郎ともうお別れになるかも知れないという気持ち。

 

 

これまでの桃太郎と過ごした日々の記憶。

 

 

もっと何かしてあげたいけれど、何もできない無力さ。

 

 

それでも最後に何かしてあげようと、きびだんごに願いを込めた。

 

 

夫も起きてきた。私のそばに寄り添ってくれた。

 

 

そして「このきびだんごは日本一だ」なんてなかなか大袈裟なことを言ってきた。少しは寂しさがやわらいだ。

 

 

「そうだ」と言うとどこかへ行って、なんだろうと思っていると、「日本一」と書いた旗を作って持ってきた。

 

 

いいだろうこれ、明日桃太郎に持たせてやるぞなどと言って見せてきたが、ひととおり自慢し終えると、「・・今日は寝れそうにないな」とぽつりと言った。

 

 

f:id:lifework4510:20180607081416j:plain

 

 

桃太郎が村を出てからというものの、川に洗濯へ行くたびに、桃が流れて来ないかなと思うようになった。あのときよりも桃太郎は大きくなったから、もっと大きな桃じゃないと入りきれないだろうな・・・

 

 

でも今さら、大きな大きな桃が流れてくることもないだろう。でもせめて、お椀に乗って流れてこないだろうか。亀に乗ってこないだろうか。そんなサプライズはなくてもいいから、背後から声がして、振り返ったら桃太郎がいたりしないだろうか。そんなことばかり考えて月日は過ぎていった。

 

 

ある日、遠くから聞き慣れない犬の鳴き声がした。振り返ってみると犬と猿と雉がいた。そして桃太郎がこちらに向かって大きく手を振っていた。